• 1989年入社

    加藤 博史

    マセラ事業本部 (ジャカルタ事務所駐在/所長)

  • 2007年入社

    有元 啓

    グローバルエネルギー営業本部 原油営業ユニット INPEX Energy Trading Singapore Pte. Ltd.(シンガポール事務所駐在/ Marketing & Trading Manager)

プロジェクト概要

原油のファーストカーゴ(第1船)とは、油田の生産開始後に最初に販売・出荷される原油のこと。この世に原油が出ていない生産開始前の段階で買主を確保しておかなければならず、営業活動には大きな困難が伴う。2011年秋に生産を開始したアジア地域のとある油田プロジェクトでは、11月のファーストカーゴ出荷を目前にして、手に汗を握るようなドラマが繰り広げられていた。ようやく掘り出した原油を、どのように売るか。エキサイティングな原油営業の現場を、当時の担当者・有元と、その上司であった加藤が語る。

  • 本対談は、現在、加藤・有元ともに海外駐在中であるため、テレビ会議システムを通じて行いました。

世の中にまだ出ていない原油を売る難しさ。

有元:
原油が思ったように売れなくて苦しんだ経験は多々ありますが、中でも、2011年秋に生産が開始されたアジア地域のとある油田プロジェクトの原油の当社ファーストカーゴを販売したときのことは忘れられません。まさにドラマでした。当時の私は、人事ユニットから原油営業に異動して1年足らずの身。販売担当としては、まだ数カ月の経験しかありませんでした。そんな中、当時の上司だった加藤さんから、2011年11月出荷分の同油田の原油の当社ファーストカーゴの販売を任されたのです。
加藤:
有元君は、原油営業に来て以来、出荷オペレーターとして難しい案件の調整を粘り強くこなしていました。慣れない業務でも成果を挙げ、さすがは入社4年目の社員だと感じました。ファーストカーゴの販売を担当するのは早いかとも思いましたが、難易度の高い仕事に立ち向かう有元君の仕事ぶりを若手に見せたい。そんな思いもあり、あえて指名したんです。

有元:
それまでも、加藤さんには難しい仕事を次々に振られていましたから(笑)。ファーストカーゴを売る難しさがどこにあるかといえば、世の中にまだ出ていない原油を売らなければならないという点です。買う人の立場で考えると、事前に説明されたとおりの性質の原油が出てくるかどうか分からないし、そもそも、原油が確実に出る保証もない。慎重になるのは当たり前です。それでも私たちは買主を見つけて相応の価格で売るために商談をまとめなければなりません。簡単にはいかないだろうと覚悟をもって臨みましたが、実際の苦労は予想以上でした。

買主が見つからない。しかし、安売りはできない。

有元:
担当を任された時点では、ある程度事前交渉を行い、感触のいい買主が部内で絞り込まれていました。通常、出荷の2カ月前に販売交渉をして商談をまとめます。私が任されたファーストカーゴは2011年11月出荷分だったので、2カ月前の9月に交渉をまとめようとしたところ、市況が悪化してきたことから、最有力候補だった買主から色よい返事がこないのです。他の買主候補にも当たりましたが当初想定したほど良い反応がなく、商談がまとまりません。9月半ばになり、11月出荷分の船積みスケジュールが発行されてもなお、買主は見つかりませんでした。あちこちに声をかけましたが、進展がないまま9月下旬になってしまいました。このままでは買主が見つからない。だんだん追いつめられるような気持ちになっていきました。

加藤:
初めて出る原油は野菜のようなもので、地中から出てくるまで状態が分かりません。なおかつ、生産開始時期がずれ込む可能性もある。買主にはこうしたリスクがあるんですね。そのため、ファーストカーゴの場合、トラブルが起きた場合も互いに歩み寄れる、信頼できる買主を探すことが大切なんです。安売りをせず利益を守りながら、いかに信頼できる買主を探し当てるか。非常に難しいことですが、それを私は有元君に求めていました。
有元:
実際、切羽詰まってきたときに、海外の需要家が買う気配を見せたんです。しかし、価格交渉や条件交渉が厳しかった。ギリギリまで検討を重ね、加藤さんとも何度も話し合いました。苦しみながら出した結論は、原油マーケットの水準を守るためにも、提示された条件はのめないというものでした。時はすでに10月です。新たな買主を見つけるために、朝から晩まで考え続け、国内外の顧客にひたすら電話をかけましたが、糸口が見つからず、どうしようもない状況が目の前に迫っていました。各方面からのプレッシャーも強く、絶体絶命のピンチでした。

原油の価値を左右する、ファーストカーゴの価格。

有元:
そのようにしてもがく中、思いもよらないことが起こりました。10月上旬、たまたま別件で来社していた日本の需要家に、ふと同プロジェクトの原油の話をしてみたのです。すると、「買えるかもしれない。」という返事。その需要家は、これまで当たっていた買主候補には入っていませんでした。どこまで条件をのめるかを加藤さんと相談しながら粘り強く条件交渉を重ねた結果、最終的に、納得できる条件で商談をまとめることができたのです。
加藤:
いい形で成約できたのは、有元君の力量。安定的に売ることと、企業としての利益を追求することに加えて、原油営業で大切なのは、「自分が顧客と話をして信頼関係を築き、自分で原油を売る。」ことです。苦しい中であっても顧客との関係をつくり、「この油田の原油なら有元だ。」と業界で言われるくらいの存在になってほしいと私は願っていました。その期待に応えてくれましたね。ファーストカーゴの時点でつけられた条件や価格は先々まで影響を及ぼすので、最初に安く売ってしまうと、しばらくは価格の回復も難しくなります。有元君は原油の価値を守り、納得できる価格・条件でまとめきりました。私自身も眠れない夜が続いていましたが、成約の知らせを聞いて、心からほっとしたものです。

有元:
まだ世の中に出てきていない原油を、リスクを承知で買うことを決めてくださったお客様にはいくら感謝してもしきれません。また、成約できた日に、加藤さんにおごってもらった焼き肉の味も忘れられません。2人で一緒に祝うことができ、本当によかったです。

プロジェクト関係者全員の思いがこもった原油を人々に届ける。 

有元:
この経験を通じて、原油営業という仕事に自信を持つことができました。「売れない恐怖」を乗り越えたことで、マーケットに対する怖さもなくなりましたね。日々、携わる中で感じる原油営業の醍醐味は、まずはグローバルであること。昨日は東チモールの原油を売り、今日はインドネシアの原油を売り、明日はオーストラリアの原油を売る。そんな日常なんです。買主も世界中に広がっていますし、出張も多い。行く場所も、関わる人も、考えることもすべてグローバルです。そしてなんといっても、プロジェクトから生産されるエネルギー資源を、自分の手でお客様に届けることができる。エネルギー供給に貢献しているという実感を味わえるのです。
加藤:
私は、原油営業に携わる前、油田を掘削するチームの一員として働いていました。現場で感じるのは、掘っても当たらない(原油が出てこない)ケースがいかに多いかということでした。井戸を10本掘って1本当たるかどうかという世界であり、商業化に至るには更に低い確率になります。そうした苦労を重ねて掘り出した原油は、それはかわいいものです。しかし、売れなければお金にならず、プロジェクトも成功したとは言えません。プロジェクトに携わった多くの人の思いを受けて、原油を売る。そこには、プロジェクトの一員としての一体感があります。私にとっては、これこそが原油営業に携わる醍醐味ですね。